道具・治具


 職人の仕事では、道具や治具、材料などをとても大切にします。
 自分の道具は自分で仕込むのが習慣ですが、「研ぎ一生」と言われる様に特に刃物の研ぎは非常に難しいものです。手入れされて使い込まれた道具と、制作スタイルに合わせて工夫された治具は、満足出来る作品の仕上がりを約束してくれます。


切り出し小刀
 切り出し小刀は、私が最も良く使う刃物です。ざっくりと削り出す為の厚く大きい物から、長時間細かい彫り物をしても疲れない小振りで軽い物まで、数種類あります。よく使う物には、昔の釘を素材にした物や、刀鍛冶にお願いして打ち出して戴いた物もあります。
 私は小刀を使い馴れているので、彫刻も殆ど小刀1本で彫ってしまい、彫刻刀は余り使いません。刃先がサクサクと木に入っていく感覚はとても気持ちの良いものです。制作中は頻繁に刃を研ぐので、気に入った物ほど直ぐに短くなってしまいます。



鉋(かんな)
 鉋は道具の中で最も手入れを必要とします。刃の研ぎはもちろんですが、台の手入れをしないといくら刃が切れても、上手く仕上がりません。台直しという専用の鉋を使って、台の滑り面の当たり具合を調整したり、「口入れ」という加工をして鉋くずの出る隙間を調整します。荒削り、仕上げ、超仕上げ、面取りなど用途に合わせて数丁揃えます。透き通る様な鉋くずがサァーッと出る時は、何とも気持ちの良いものです。



鑿(のみ)
 鑿はホゾ穴を掘ったり、めちがいを払ったり、平面を仕上げたりと様々な用途で使われます。精度の高い加工に用いるので、刃裏の平面性が大切で研ぐ際に気を遣います。
 この10本の鑿は私が辻氏に弟子入りした時に買ったもので、25年以上使っている物ですが、柄の先端にはめてある冠と呼ばれるリング状の割れ止めも、内側にヤスリを掛けて丁寧に仕込んであるので、柄頭を随分叩きましたがまだまだ永く使えそうです。



鋸(のこぎり)
 精巧な細工にはやはり良い鋸が必要です。小型の細工用の物を主に使いますが、縦、横、斜め切り用の3本の他に、木釘切り用が1本あります。ひと目でどれか分かる様に柄を色分けしてあります。柄は持った時にしっくり来る様に自分の手に合わせて削ってあります。



金槌(かなづち)
 普通は柄が付いた状態で売っていますが、自分が使うのに丁度良い形や重さ、長さ、太さという事で選びだすと、結局頭だけを買って、柄を自作という事になります。頭だけなら安いという訳ではなく、頭だけで売っているような物になると、柄付きの10倍位の価格です。しかし、自分の手に合わせて削った柄を取り付けてバランス良く仕上がると、用がなくても握りたくなる道具となります。



ドライバー
 ドライバーはアメリカの“PROTO”というメーカーの物を、25年以上愛用しています。このクリアーイエローの柄の形状が何とも握り易く、回し易くて手放せません。先端もネジ山に合わせて滑りにくい様に加工してあります。
 オルガン作りでは大量のネジを使い、ネジの締め具合も微妙なので、ドライバーとの相性は仕事の出来に大きく影響します。私が使用するのは主にマイナスネジで、手締めの場合はプラスネジよりも遙かに回し易く、ネジ山も潰れにくいのです。国内ではもうプラスネジしか生産していないので、ドイツから真鍮製のマイナスネジを取り寄せています。



アングルスライサー
 留め(とめ)と言う、箱の角の様に斜めに切って付き合わせた部分を、正確に切る為のカッターです。アメリカのワークショップで目にして忘れられず、取り寄せました。“MITER TRIMMER”という道具で、レバーを動かすと刃が水平にスライドするギロチンの様ですが、なかなかの切れ味で微妙な角度の調整もスッパリと綺麗に切断できます。



ドリルビット
 オルガン制作では非常に多くの穴開け作業が行われます。そのため多種多様のドリルビットを用意する必要があります。

穴開けではなく、丸棒を削り出すドリルビット
底が平らな穴を掘る為のドリルビット


パイプ整形用心金(しんがね)
 メタルパイプの足を丸める時に使う、円錐形の心金です。扇形に裁断したメタルシートをこの心金に当てて、叩きながら丸めます。足のテーパーはパイプ毎に微妙に角度が変化するので、いくつかのテーパーを用意して交換しながら整形します。心金という名の通り普通は金属で作るのですが、外注すると大変高価になるのと重いので、ジャラという非常に堅い木を使って木工旋盤で削り出しました。作業台に固定しやすい様に、根本の部分は四角く削ってあります。



彫刻用ターンテーブル
 彫刻をする際に使う自作のターンテーブルです。彫刻作業では様々な方向から刃物を当てたいのですが、片手で彫刻材を押さえていると安定しにくく力も入りません。彫刻材をクランプ等で固定すると両手が使えますが、一方向からしか刃物を当てられなくなり不便です。このジレンマを解決するために、彫刻材をターンテーブルに固定して、自由に回転させながら作業出来る治具をこしらえました。
 ベースとなる台座をクランプで作業机に固定し、中央の軸にターンテーブルをセットします。ターンテーブルの裏側からは多数のネジが打ち込まれており、彫刻材を固定しています。回転させない時には台座に付けられたスライドレバーを、ターンテーブル周囲の欠き込みにはめ込むことで、自由な位置で固定できます。説明するとややこしいのですが、非常に作業し易く、美しい彫刻の制作に欠かせないお気に入りのアイテムです。



プレス型
 自作のプレス用の型で、その形から勝手に「おさかな君」などと名付けています。
「オルガネッタ2型」の、中央の半円形に張り出した部分を作るための治具で、頭の半円形の部分に糊を塗った薄板を何枚も重ねてセットし、金属棒を沢山並べたゴム板を当てて、タイラップという荷造り用の締め付けベルトとクランプで圧着します。



切断用「当たり」
 軸昇降傾斜盤というテーブルソーのマイターゲージ(材料の長さを切る為のスライド定盤)にセットして使う、位置決め用の「当たり」です。同じ長さで何枚も切る際は、「当たり」というブロックを付けると、正確に素早く切る事ができます。
 マイターゲージに金属製定規を貼り付けて、レバーでワンタッチ固定出来る、トグルクランプを利用した「当たり」をこしらえました。極めて正確に加工する際にはノギスを使いますが、通常の作業では殆どこれでカットしています。馴れると誤差0.3ミリ以下でカットでき、とても便利です。





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