制法の秘密


 「オルガネッタ」は伝統的なオルガン制作法を基に、様々な独自の手法を取り入れて、楽器としての品質を高めています。


音の秘密


その1
 「オルガネッタ」は伝統的なパイプオルガンのデザインを踏襲しており、そのパイプの配置は音響的に優れたアレンジでなされています。単純に音階順でパイプを並べると、隣り合ったパイプが半音違いの音程関係となり、非常に不協和な音響環境となりますが、出来るだけ協和音関係にパイプを並べることで楽器全体が美しく響く音響環境になります。「オルガネッタ」は視覚的な美しさと、優れた音響とを両立させてデザインされています。

「オルガネッタ2型」の例。部分のパイプは長3度の協和音関係で配置されています。


その2
 「オルガネッタ」のパイプは主に18世紀のイタリアやドイツのパイプオルガンの笛の寸法を基に作られています。特にケース正面に並べられたフロントパイプは、18世紀にイタリア北部で使われた「森のフルート」(Flauto in selva)と呼ばれる笛を、楽器のコンセプトに合わせてアレンジしており、「オルガネッタサウンド」とも言うべき独特の音色を創り出しています。
 また、調律法も平均率ではなく、6つの純正5度を含む「ヴァロッティ&ヤング」という調律法を用いており、響きの美しさを追求しています。

試聴  2型(アヴェ・ヴェルム・コルプス)
CD「モーツァルト・ミーツ・オルガネッタ2型」六甲オルゴールミュージアム制作


その3
 「オルガネッタ2型」には2種類の音色が備わっていますが、音色の組み合わせを操作する機構(ストップ)も使い易さに配慮しています。
 通常、小型の手回しオルガンで音色の操作をする場合、ケースの側面に飛び出した板(スライダー)を出し入れしますが、位置的に操作しにくい場合もあります。「オルガネッタ2型」ではケースの背面に操作ノブを出す事で、演奏中でも容易に音色交換が出来ます。

一般的なストップ配置
「オルガネッタ2型」の配置
内部の操作機構 



風の秘密


その1
 手回しオルガンでは、ハンドルを回して吹子(ふいご)を漕ぐ事で、パイプを鳴らす風が供給されます。オルガンの吹子は人間で例えると肺に相当する部分で、管楽器奏者や声楽家にとって充分な肺活量が非常に大切な様に、オルガンにとって吹子は極めて重要な要素です。「オルガネッタ」では吹子を充分に大きくする事が音色、音楽性、操作性の全てに良い影響をもたらす基本と考えて、吹子の大型化の為に独自の部品配置を採用しています。
 一般的に吹子はフロントパイプの背後に配置されますが、この方法では吹子は充分な奥行きを確保出来ません。「オルガネッタ」では、通常は低音用の木管が並べられる本体底面に、ケースの奥行き一杯の吹子を配置して、木管はケース側面や背面に配置しています。
 こうした配置により、ケースの底面積一杯の大きな吹子を装備出来ると同時に、演奏中もケース下面から吹子を直接触れる事ができ、指先で微妙に力を加える事で自然なヴィブラートをかける事も出来ます。



その2
 手回しオルガンの吹子は、風を送る為の吹子(ポンピングベローズ)と風を溜める為の吹子(リザーヴァー)とがセットになっています。小型の手回しオルガンの場合、この風を送るポンピングベローズが2基(上下に1対)しか無い機種を良く目にします。


 「オルガネッタ」の場合、前述の様に吹子を大きく出来る部品配置を採用している為に、小型の「1型」でも4基(2対)のポンピングベローズを備えています。
 2基と4基とでは、単に数が倍というだけではなく、その性能に大きな差が生じます。
 ハンドルを1回転させた時に1基の吹子が風を送れるのは、半回転の180°分だけで、残りの半回転は次に送る為の風を溜めている状態で、送風は行われていません。
 ポンピングベローズが2基の場合、各吹子がハンドル半回転毎に交互に送風している状態となります。その為にハンドル1回転に対する送風量は下図の様になります。


 図では0°〜180°の間で赤い吹子が送風しており、180°〜360°の間で青い吹子が送風しています。送風量(黄色)は90°と270°で最大(20)、180°と360°(0°)で最小(0)となり、平均して10の送風量となります。
 これに対して4基のポンピングベローズを備えていると、4分の1回転(90°)毎に各吹子の送風量が重なり、各々の吹子が互いに送風ムラを補い合って、安定した風が供給されます。


 図では赤と青の他にオレンジと緑の吹子が加わり、4基の吹子になりましたが、吹子1基あたりの大きさは半分になって最大送風量は10となります。見た目では90°、180°、270°、360°(0°)で送風量が半分の5に落ち込んでいる様に見えますが、ピンク色の部分は2基の吹子が重複して送風しているので、黄色い部分の2倍の送風量となり、結果的に常に10の送風量で風を送っています。
 つまり、ポンピングベローズ2基のタイプは、送風量が20から0に変化しながら平均して10の送風をしているのに対し、4基のタイプは常に10の送風量で送風し続けているという事です。
 送られた風はリザーヴァーに溜められて圧力調整されるのですが、送風量のムラが大きいと完全に調整しきれず、結果的にパイプの音が揺れて音量や調律が安定しなくなります。
 美しい音でパイプを鳴らす為には、パイプの整音以前に、まず安定した風を送る事がとても大切なのです。


その3
 前述の送風量のムラは、音だけでなくハンドルを回す重さにも大きく影響します。送風量はハンドルの仕事量に相当するので、送風量のムラはそのままハンドルの重さのムラとなります。
 つまりポンピングベローズ2基の吹子を漕ぐ時、ハンドルは4分の1回転毎に重い、軽いを繰り返しますが、4基の場合はハンドルを回す重さが常に一定になります。
 また吹子を漕ぐストロークはなるべく短い方が、ハンドルの回し心地が良く、風も安定します。この点でも、低風圧で大型の吹子を持つ「オルガネッタ」は、ほぼ同サイズのストリートオルガンに比べて、約半分(35ミリ)の極めて短いストロークで吹子を漕いでいます。
 「オルガネッタ」の吹子に対するこだわりは、音色と操作性の両方に良い影響をもたらし、楽器としての質を高める基礎となっています。

「オルガネッタ1型」の吹子(左)とほぼ同サイズのストリートオルガンの吹子(右)

 「オルガネッタ」の吹子は4基(2対)のポンピングベローズを備え、高さが低い(ストロークが短い)のに対し、ストリートオルガンの物は2基(1対)でストロークが長いのが分かります。また、ケースの奥行きは「オルガネッタ」の方が狭いのに、吹子の奥行きはかえって広くなっています。



曲の秘密


その1
 「オルガネッタ」の音楽ソフトは、ブックと呼ばれる厚紙を経本状に折り畳んだものを使用しています。同じ様に紙に孔を開けて曲を記録したものには、薄紙を巻いたロールペーパータイプもあり、小型のストリートオルガンではこちらを良く目にします。
 ロールペーパータイプは軽くて持ち運びが容易ですが、演奏後に巻き戻さないと次の演奏が出来ない点が不便です。また、たいてい1本のロールに数曲が記録されているので、途中の曲をかけたくても前の曲を演奏しないと、希望の1曲だけを選曲することは出来ません。
 ブックタイプは重いのですが、巻き戻しの手間もなく、曲の交換が容易で、好きな曲だけ自由に演奏出来ます。また、演奏中にブックが移動しながら折り畳まれていく様子は見た目にも面白く、いかにもカラクリ仕掛けといった趣があります。

手前が薄紙のロールペーパータイプ、奥が厚紙のブックタイプ


その2
 ブックタイプのオルガンには、曲の読み取り方法にキータイプとキーレスタイプの2種類があります。キータイプはキーと呼ばれる金属製のツメでブックの孔を読みとる機構で、キーレスタイプはハーモニカの様に小さな穴の開いたトラッカーバーと呼ばれる部品で孔を読みとる機構です。
 キータイプは作動の確実性が高いのですが、近くで聴いているとカチカチとキーの動作音が聞こえてしまいます。また、長い音が幾つも鳴る様な曲では、ブックの強度を保つ為に孔の途中に細い補強(ブリッジ)を入れますが、キータイプではこのブリッジも読みとってしまい、リズムと関係のない部分で音が途切れてしまうので、通奏音の多いゆったりとした曲の演奏には不向きです。
 「オルガネッタ」ではゆったりとした曲も含めて、様々な曲を滑らかに演奏出来るキーレスタイプを採用しています。

キータイプ
キーレスタイプ
ブックに開いた長い孔の補強(ブリッジ)


その3
 「オルガネッタ」は小型楽器でありながら、38音という非常に多くの音数を持ち、(ほぼ同サイズのストリートオルガンは20〜25音程度)半音階で音が揃っています。この為、様々な曲を美しいハーモニーで表現する事が出来ます。
 コンパクトなケースに多くの音数を持たせる為には、パイプに風を送る空気弁の小型化がカギとなります。様々な試験結果を基に、小型でありながら低い風圧でもレスポンス良く反応する独自の空気弁を完成させました。

小型な「オルガネッタ」の空気弁(右)
風箱内にずらりと並んだ空気弁


その4
 「オルガネッタ」のブックでは、必要に応じて孔の長さに微妙な変化を付けています。
 オルガンの演奏では、ピアノの様に鍵盤の叩き具合で音量が変わらないので、強拍、弱拍といった抑揚を付けにくく、音の長さを微妙に変えたり、リズムを僅かに変化させたりする事で、抑揚を付ける演奏法が重要になります。
 「オルガネッタ」ではこうした実際の演奏法に近い孔開けを行うことで、機械的で単調な演奏になることを避けています。






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